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第6話 実妹との恋愛が許されるのはフィクションだけ

作者: エスツー
last update 最終更新日: 2025-07-18 11:22:28

「お疲れのようね、グレン兄さん。お菓子持ってきたんだけど、ちょっと休憩しない?」

 ウェーブのかかったバレスチカ家特有の美しい黒髪に切れ長の黒の瞳、蒼のドレスに身を包んだ少女、僕の最愛の妹であるアクアル・バレスチカがお盆にいくつかのお菓子を乗せて訪ねてきてくれた。

 可愛らしい彼女の姿を見ただけで先程まで感じていた倦怠感が吹き飛ぶ。

 我ながら現金な物だと思う。

「ありがとう、アクアル。ちょっと気が滅入ってたところだったから助かるよ」

 執務机から離れてポットからカップにお湯を注ぎ二人分の紅茶を淹れると、来客用のソファーを挟んだ机に置く。

 だけど対面のソファーに座ると思っていたアクアルはそれをせず、僕の隣へと腰を下ろした。

 やだ……僕の妹、あまりにも可愛すぎない?

 結婚したいんだけど。

「ところでさ、さっきリリアーゼが廊下をすっごいニコニコ顔でスキップしながらロゼを引き連れてるのを見たんだけど、兄さん何か知らない?」

 紅茶を啜りながらアクアルから切り出された話を聞いて、珍しい事もある物だなと僕は思った。

 リリアーゼが笑顔を浮かべている時は大抵彼女が好みの女の子(主にロゼ)を追い込んでいる時だからだ。

「あぁ、それなんだけどね。この家に新しい妹が増える事になったんだよ」

「はぁ?」

 ◇

「あの子ってほんとロゼの事大好きなのね」

 安物のクッキーを齧りつつ、先程執務室でのリリアーゼとのやり取りを聞かせたものの、アクアルからの反応は思ってたより大人しい、というより予想の範疇だとでも言いたげな物だった。

「事後承諾になって悪かったね」

「いいわよ、別に。兄さんじゃあの子を止められない事は分かってるし、私もロゼの事は嫌ってる訳じゃないもの」

 僕の力ではリリアーゼを止められない。

 指摘された事実にチクリと胸が痛む。

「それにしても学園の生徒としてねじ込む為にロゼをうちの養女にねぇ。あの子ったらロゼの事になると見境がなくなるというか……ほんとに何でもやるんだから」

 そう言ったアクアルは腕を交差させて自分の肩を抱くようにして震えていた。

 今から半年程前、リリアーゼの手によって自身が蹂躙された時の記憶が思い起こされてしまったのかもしれない。

 背中をさすってあげようとして……止めた。

 彼女の顔に浮かんでいたのは恐怖、ではなく悦楽だったからだ。

 あの事件以降、自分もアクアルも、もしかしたらリリアーゼも、回り回ってロゼも、あの場にいた全員の性癖が捻じ曲がってしまった。

「……守りきれなくてごめん」

「兄さんが謝る必要なんてないわ。あれは私の自業自得だもの。それに––––」

 暗い笑みを浮かべていたアクアルの口角が釣り上がる。

 その表情はどこか、僕と彼女の妹であるリリアーゼと被って見えた。

「私も私で今を楽しませてもらってるから」

 ◇

 あの事件の事を話す前に、まずバレスチカ家の成り立ちについて語る必要がある。

 バレスチカ子爵家の歴史は長い。

 今から500年ほど前、魔王バルバトスと呼ばれるおそるべき存在が当時のキングダム王国に対して侵略戦争を仕掛けてきた時期があった。

 結果的には王国側が魔王バルバトスを降す事になったのだが倒しきる事は出来なかったようで、最終的に王国はバルバトスを国の客人として扱い、王国の領地に住まわせる事にしたらしい。

 バレスチカ家とはそんな魔王の血を引く者達の末裔とされている。

 荒唐無稽な話だと思うかもしれないが、この言い伝えはおそらく真実に近い物だと思う。

 その証拠と言っていいかはわからないが、バレスチカ家直系の者は皆黒髪黒目の美しい容姿をしており、纏っている魔力は黒を混ぜ込んだような色をしている。

 一族の者達の戦闘能力は総じて高く、今日までキングダム王国が他国から大きな侵略戦争を仕掛けられる事がなかったのは他国がバレスチカ家、もとい魔王の力に畏怖しているからという説すらある程だ。

 そして現在。

 過去一魔王に近い力を持つとされている存在がいる。

 そう、リリアーゼだ。

 僕やアクアル以上の、完成されたと言っても過言ではない美しい容姿、他の追随を許さない圧倒的な戦闘力、そしてあの傍若無人で他者を辱める事に愉悦を見出す歪んだ性格。

 まさに魔王その物だ。

 現王国騎士団長であり王国最強とも名高い僕達の父上、グランド・バレスチカから誰よりもバレスチカを体現しているとお墨付きを貰った彼女はあらゆる意味で特別だった。

 だけど––––

 僕のもう一人の妹、アクアル・バレスチカはそんなリリアーゼの事を疎んでいた。

 ただ、疎んでいたと言っても表立って対立していた訳でもない。

 長男である僕や長女である自分に対して敬意を払わず軽んじた態度を取り、父上からも特別扱いされているリリアーゼの事が気に食わない、とかその程度の事だったんだ。

 そんなちょっとした確執が取り返しの付かない程に肥大化した要因は3年前にリリアーゼが王都近くの貧民街で拾ってきたロゼを専属メイドにした事だろう。

 僕やアクアルには専属従者なんて贅沢な存在はついていない。

 これは別にバレスチカ家が貧乏だからという訳ではなく、単に『自分の身の回りの事ぐらい自分でやれ』というのが父上の教育方針だからだ。

 だけどリリアーゼはそんな父上の意向を何事もなかったかのように無視してロゼを専属メイドにして、その上父上自身もリリアーゼの行動をあっさりと容認した。

 完全に特別扱いだ。

 それだけじゃない。

 リリアーゼはつい昨日までやっていたように、僕達に見せびらかすようにしてロゼを辱め、己の欲望を満たしていた。

 僕からしてみればそんな物を見せられたところでただドン引きするだけだったけど、アクアルにはこれが相当なストレスになっていたらしい。

 そしてアクアルの我慢に限界が訪れた時、事件は起きた––––

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 お兄様はイエスシスターノータッチな精神なのでお姉様に手を出す事はないです。

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  • クレイジーレズと呼ばれた少女、自分が戦闘あり乙女ゲーの大ボス悪役令嬢だと気付いたので開き直って今世で推しのサブキャラメイ   第24話 小ボスが大ボスに勝てると思ってるんですの?

    「世話になりましたわね、お姉様」 リリアーゼからかけられた言葉に私は呆気に取られたわ。 高慢ちきなこの子が素直に礼を言うなんて……。「あとはわたくしがやりますの。手出しは不要ですわ」「……リリアーゼ」「臭––––「うっせぇですわ!!」 苦情を漏らした私を怒鳴りつけつつ先程吹き飛ばした、紫色の金属で全身を覆う瞳が真鍮でできた魔物の下へと歩みを進めるリリアーゼ。 そんな彼女と入れ替わるようにロゼ色の髪と瞳をした、丈の短いスカートのメイド服に身を包む少女、ロゼが刺激臭を撒き散らしながら駆けつけてきたわ。「アクアル様、ご無事ですか!」「ロゼ。悪いけどちょっと離れ……いや、やっぱりいいわ。【清浄(ピュアリィ)】」 呪文を唱えるとロゼの身体が鈍く発光し、彼女から漂うヘドロのような酷い臭いが掻き消えた。 良かった、私の【清浄(ピュアリィ)】はこのレベルの臭いにも効くのね。「ありがとうございます!あの……これ使ってください!」「頂くわ」 私はロゼからハイポーションを受け取ると、そのまますぐに飲み干す。 普段なら高額なハイポーションなんて使わずに自分で傷を癒す所だけど、魔法の連続使用で精神的に疲弊しすぎてるし、それにここに来てから手に入ったドロップ品を売りさえすれば使った費用に関してはすぐ戻ってくるわ。「アーゼちゃんは勝てるでしょうか?」 私の隣に立ち、現れた魔物とリリアーゼの対峙を見届けるロゼがオドオドとした様子で訊ねてきた。 まぁ、不意打ちとはいえリリアーゼはあの魔物の攻撃で死にかけたんだから不安にもなるわよね。「ロゼ。私がアレと戦い始めてからどれだけの時間が経ったか分かる?」「あ……申し訳ありませんアクアル様。アクアル様のおかげであたしもアーゼちゃんも命を拾––––」「いや、別に嫌味を言いたいわけじゃないから」 フォーチュン学園の学園長が朝礼台の上でよくやる『今、皆さんが静かになるまで〜〜分かかりました』的な寸劇をしたかった訳じゃないのよ?「私があの魔物と戦って保たせた時間は約3分。そんな相手にリリアーゼがもし本気を出したら––––」 ちょっと得意げに微笑んで答える。「30秒でケリがつくわ」 ドン!!! 前方から大きな衝突音が聞こえてきたわ。 その音の正体は体勢を立て直した魔物の顔面にナックルダスターを装備したリリアー

  • クレイジーレズと呼ばれた少女、自分が戦闘あり乙女ゲーの大ボス悪役令嬢だと気付いたので開き直って今世で推しのサブキャラメイ   第23話 ファーストキスを台無しにされた代償、払って頂きますわ! 

     △△(side:リリアーゼ) んん……くっさ。 なんなんですの、この酷い臭いは。 血を流しすぎたせいか、意識が朦朧としていたわたくしは先程から鼻先を掠め続ける腐った生ゴミみたいな臭いに辟易していましたわ。 それにさっきから唇に生温い水らしき物が触れてきやがりますし、とんでもなく不快ですの。 この不快さから逃れる為に目を開けたいのに瞼が上がらない、そんなもどかしい状況が続く最中、不意に唇に柔らかくて温かい感触が伝わってきましたわ。 不思議な触感を持つそれはわたくしの口内へと侵入し、何かを渡そうとしているように感じられましたの。 わたくしはその正体を確かめるべく、重い瞼を開いて––––。 ……ロゼ? 目覚めたらロゼ色の瞳と髪の少女、わたくしの最愛のメイドであり義妹でもあるロゼと唇を合わせている事に気付きましたの。 あぁ、これは夢ですわね。 だってあまりにもわたくしに都合が良すぎますもの。 ロゼの可愛らしい顔がどこか苦痛に歪んでいるように見えるのはおそらく、この夢がわたくしが彼女に百合乱暴(控えめな表現)しているシチュエーションなのだからでしょう。 だいぶ溜まってますわね。 でもどうせ夢なのだから楽しまなければ損ですわ。 わたくしは夢の中の彼女の口内を蹂躙しようとして–––– 流れ込んできた液体のあまりのまずさ、苦さ、そしてヘドロみたいな臭いに盛大に咳き込みましたわ。「ぶええええぇっ!?くっさ!!?まっず!!??なんなんですの、これは!!!」「アーゼちゃん!良かった……」 意識を取り戻したわたくしに抱きついてきたロゼをなるべく乱暴にならないよう優しく押し戻しましたわ。 いえ、普段なら喜んで受け入れるし、ついでにどさくさに紛れて太腿やらお尻やらを撫でてるところですけれど、ロゼからさきほどわたくしが感じたヘドロのような臭いがするので流石にそんな気分にはなれませんの。 むしろ突き飛ばして罵倒しなかっただけ偉いと褒めて欲しいぐらいですわ。 ……あら? ちょっと時間を置いた事でぼんやりした頭が回ってきて、そのせいでわたくしは気付きたくなかった事に気付いてしまいましたわ。 ……もしかして今のでわたくしのファーストキス、しかも待ちに待ったロゼとの交わりは終わりなんですの?「……ロゼ、状況を説明なさい」 ふううううぅうう。 落ち着

  • クレイジーレズと呼ばれた少女、自分が戦闘あり乙女ゲーの大ボス悪役令嬢だと気付いたので開き直って今世で推しのサブキャラメイ   第22話 目覚めのキスはほろ苦……苦いってレベルじゃないです

     △△(side:ロゼ)「アーゼちゃん!?」 幻竜王シャーク・ドレイクを倒し、アーゼちゃんがようやく一息付いたその時――  まるで彼女の影から這い出るようにして全身を紫色の刃物で覆ったような魔物が現れ、アーゼちゃんの背後から何かを突き刺したのが見えました。 アーゼちゃんの胸から長剣が飛び出し、大量の出血が引き起ります。「う……あああああああああああ!!!」 目の前が真っ赤に染まり、怒りの感情が頭の中をグルグルと駆け巡りました。  あたしは手の中にある短剣を握りしめると、すぐさまアーゼちゃんを手にかけた魔物に飛びかかろうとして―― 既に行動を起こしていた人物がいた事に気が付きました。「【激流加速(アクアブースト)】––––はあっ!!」 アクアル様です!  彼女は足元から水の魔法を噴出する事で推進力を得た事で高速で飛び出すと、そのままアーゼちゃんにトドメを刺そうとした魔物に薙刀で斬りかかったのです!「ロゼ!リリアーゼを回収してすぐに治療しなさい!このままじゃ全滅するわよ!」「は、はいっ!」 そのまま現れた魔物と斬りあいになるも、冷静に指示を飛ばすアクアル様を見て、ようやくあたしも我を取り戻しました。 そうです。  ここであたしが怒りのまま戦いを挑んだところで、返り討ちにされるのは目に見えているという物です。  あたしは今、あたしにしかできない事をしないと!「アーゼちゃん、すぐに治しますから!」 アクアル様が現れた魔物を引き付けている間、あたしはすぐさまアーゼちゃんの傍まで駆け寄り彼女の身体を抱えると、20m程離れた場所まで移動しました。  ◇ 「早く……早く何とかしないと」 アーゼちゃんの身体を地面に横たえると、あたしはすぐに収納袋の中を漁り始めます。 ――あった!  取り出したのは瓶詰めにされた濃い蒼色の液体。「ハイポーション!これさえあれば––––」 治癒魔法程ではないものの、怪我や傷を驚くべき早さで治す秘薬であるポーション(1本5万ゼニン)。  ハイポーションはその上位の性能を有しており、その効力は治癒魔法と同等、場合によっては上回る事すらあると言われている程です。 そしてバレスチカ家ではこのハイポーション(1本50万ゼニン)がなんと!当家の子息子女に対して一人につき5本も支給されているのです!  これだ

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