「お疲れのようね、グレン兄さん。お菓子持ってきたんだけど、ちょっと休憩しない?」
ウェーブのかかったバレスチカ家特有の美しい黒髪に切れ長の黒の瞳、蒼のドレスに身を包んだ少女、僕の最愛の妹であるアクアル・バレスチカがお盆にいくつかのお菓子を乗せて訪ねてきてくれた。
可愛らしい彼女の姿を見ただけで先程まで感じていた倦怠感が吹き飛ぶ。我ながら現金な物だと思う。
「ありがとう、アクアル。ちょっと気が滅入ってたところだったから助かるよ」
執務机から離れてポットからカップにお湯を注ぎ二人分の紅茶を淹れると、来客用のソファーを挟んだ机に置く。
だけど対面のソファーに座ると思っていたアクアルはそれをせず、僕の隣へと腰を下ろした。やだ……僕の妹、あまりにも可愛すぎない?
結婚したいんだけど。「ところでさ、さっきリリアーゼが廊下をすっごいニコニコ顔でスキップしながらロゼを引き連れてるのを見たんだけど、兄さん何か知らない?」
紅茶を啜りながらアクアルから切り出された話を聞いて、珍しい事もある物だなと僕は思った。
リリアーゼが笑顔を浮かべている時は大抵彼女が好みの女の子(主にロゼ)を追い込んでいる時だからだ。「あぁ、それなんだけどね。この家に新しい妹が増える事になったんだよ」
「はぁ?」
◇ 「あの子ってほんとロゼの事大好きなのね」安物のクッキーを齧りつつ、先程執務室でのリリアーゼとのやり取りを聞かせたものの、アクアルからの反応は思ってたより大人しい、というより予想の範疇だとでも言いたげな物だった。
「事後承諾になって悪かったね」
「いいわよ、別に。兄さんじゃあの子を止められない事は分かってるし、私もロゼの事は嫌ってる訳じゃないもの」
僕の力ではリリアーゼを止められない。
指摘された事実にチクリと胸が痛む。「それにしても学園の生徒としてねじ込む為にロゼをうちの養女にねぇ。あの子ったらロゼの事になると見境がなくなるというか……ほんとに何でもやるんだから」
そう言ったアクアルは腕を交差させて自分の肩を抱くようにして震えていた。
今から半年程前、リリアーゼの手によって自身が蹂躙された時の記憶が思い起こされてしまったのかもしれない。背中をさすってあげようとして……止めた。
彼女の顔に浮かんでいたのは恐怖、ではなく悦楽だったからだ。あの事件以降、自分もアクアルも、もしかしたらリリアーゼも、回り回ってロゼも、あの場にいた全員の性癖が捻じ曲がってしまった。
「……守りきれなくてごめん」
「兄さんが謝る必要なんてないわ。あれは私の自業自得だもの。それに––––」
暗い笑みを浮かべていたアクアルの口角が釣り上がる。
その表情はどこか、僕と彼女の妹であるリリアーゼと被って見えた。「私も私で今を楽しませてもらってるから」
◇ あの事件の事を話す前に、まずバレスチカ家の成り立ちについて語る必要がある。バレスチカ子爵家の歴史は長い。
今から500年ほど前、魔王バルバトスと呼ばれるおそるべき存在が当時のキングダム王国に対して侵略戦争を仕掛けてきた時期があった。 結果的には王国側が魔王バルバトスを降す事になったのだが倒しきる事は出来なかったようで、最終的に王国はバルバトスを国の客人として扱い、王国の領地に住まわせる事にしたらしい。バレスチカ家とはそんな魔王の血を引く者達の末裔とされている。
荒唐無稽な話だと思うかもしれないが、この言い伝えはおそらく真実に近い物だと思う。
その証拠と言っていいかはわからないが、バレスチカ家直系の者は皆黒髪黒目の美しい容姿をしており、纏っている魔力は黒を混ぜ込んだような色をしている。一族の者達の戦闘能力は総じて高く、今日までキングダム王国が他国から大きな侵略戦争を仕掛けられる事がなかったのは他国がバレスチカ家、もとい魔王の力に畏怖しているからという説すらある程だ。
そして現在。
過去一魔王に近い力を持つとされている存在がいる。そう、リリアーゼだ。
僕やアクアル以上の、完成されたと言っても過言ではない美しい容姿、他の追随を許さない圧倒的な戦闘力、そしてあの傍若無人で他者を辱める事に愉悦を見出す歪んだ性格。
まさに魔王その物だ。現王国騎士団長であり王国最強とも名高い僕達の父上、グランド・バレスチカから誰よりもバレスチカを体現しているとお墨付きを貰った彼女はあらゆる意味で特別だった。
だけど––––
僕のもう一人の妹、アクアル・バレスチカはそんなリリアーゼの事を疎んでいた。
ただ、疎んでいたと言っても表立って対立していた訳でもない。
長男である僕や長女である自分に対して敬意を払わず軽んじた態度を取り、父上からも特別扱いされているリリアーゼの事が気に食わない、とかその程度の事だったんだ。そんなちょっとした確執が取り返しの付かない程に肥大化した要因は3年前にリリアーゼが王都近くの貧民街で拾ってきたロゼを専属メイドにした事だろう。
僕やアクアルには専属従者なんて贅沢な存在はついていない。
これは別にバレスチカ家が貧乏だからという訳ではなく、単に『自分の身の回りの事ぐらい自分でやれ』というのが父上の教育方針だからだ。だけどリリアーゼはそんな父上の意向を何事もなかったかのように無視してロゼを専属メイドにして、その上父上自身もリリアーゼの行動をあっさりと容認した。
完全に特別扱いだ。それだけじゃない。
リリアーゼはつい昨日までやっていたように、僕達に見せびらかすようにしてロゼを辱め、己の欲望を満たしていた。僕からしてみればそんな物を見せられたところでただドン引きするだけだったけど、アクアルにはこれが相当なストレスになっていたらしい。
そしてアクアルの我慢に限界が訪れた時、事件は起きた–––– ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― お兄様はイエスシスターノータッチな精神なのでお姉様に手を出す事はないです。第1章ラスボス戦&第1章完結です。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ここはバレスチカ家、わたくしの自室のベッドの上。 時刻は深夜2時。「すぅ……すぅ……」「……寝てますわよね?」 枕元に置いてある炎属性の魔石を動力源にする光源を調整して眩しくない程度の灯りをつけますの。 すると可愛らしい桃色の下着を身につけて穏やかな寝息を立てるロゼの愛らしいお顔がよく見えるようになりましたわ。「ふ、ふふ……」 今まではロゼを軽く抱きしめて、それをおかずにして致すまでが限界でしたけれど、今日のわたくしは一味違いますの。 これからロゼの唇を奪ってやるのですわ!!! ……。 だって、あの時(第23話参照)は|処刑者《しょけいしゃ》キルリスとかいうカスとレイライトとかいうグレた家出少女のせいでわたくしのファーストキスが|気付け薬《ヘドロ》味になってしまったんですもの! 一刻も早く本当のファーストキスをして上書きする必要があるのですわ! それに今日はダンジョンから帰ったばかりにも関わらず休む暇もなく、王都で延々と手続きをさせられたんですもの。 いっぱい頑張ったわたくしにはご褒美をもらう権利があるのですわ! ……よし。 言い訳もしっかりした事ですし、早速やりますの。 今ならロゼにキスをしても脳が焼き切れるような事はない気がしてきましたわ。 わたくしは勢いのままロゼの頬に手を添えて、唇を近付けて–––– ちゅっ。 「……ふぅ」 ……。 ほわああああああぁああっ! ついに!ついにやりましたわ!! ロゼの唇、すっごい柔らかかったですわ! わたくしの大勝利ですわ!「ふ、ふふふ……」 一拍置いて落ち着いてからもう一度、呑気に寝入ってるロゼの顔を見つめ直していたら、心の奥底からムクムクと嗜虐心が鎌首をもたげて来ましたわ。 ねぇ、ロゼ。 今どんな気持ちですの? 出会ってから3年もの長期間、自分をいいように扱き使い貶めてきた大嫌いな女に、それも自分の知らない間にファーストキスまで奪われて。 うふふ、どんな気持ちなんですの? ねぇ?どんな気持ちなの?ねぇ?「あなたの初めてのお相手はアクアルお姉様でもアーサー殿下でもないっ! このわたくし、リリアーゼなのですわぁっ!!」
「わたくしがアレイスター殿下の婚約者に?」 陛下からご提案された内容を聞いた感想としては納得半分、驚き半分、と言ったところでしたわ。 納得についてはまずそもそもの前提として、原作の『ふぉーみら』においてリリアーゼは3人いるアレイスター殿下の婚約者候補の1人でしたものね。 だからわたくしと陛下が顔合わせをした以上、向こうからそう言った話を持ちかけてくる事は予想できてはいましたけれど。「陛下。お尋ねしたい事があるのですわ」「うむ、もちろん構わぬよ。急にこのような事を言われたところで気持ちの整理がつかぬだろうからな」「では遠慮なく。陛下はわたくしを殿下の婚約者にしたいんですの?婚約者候補ではなく?」 わたくしが疑問をぶつけると、陛下はカッと目を見開きましたわ。 どうやらクリティカルだったようですわね。「バレスチカ家の子息子女は皆優秀だと聞いてはいるが、流石に驚いたぞ。確かに元々リリアーゼ嬢にはアレイスターの婚約者候補としての打診をする予定だった」 ちなみに婚約者候補はリリアーゼを除くと主人公で聖女候補のシャルロットと公爵令嬢の2名。 これだけ見れば乙女ゲーらしくもあるのですけれど、リリアーゼは知っての通り男性に興味がなく、公爵令嬢は後に婚約云々とは全くの別件……というかロゼ関係でリリアーゼに絡んだ結果、百合乱暴(控えめな表現)されて純潔を失った事により婚約者候補を辞退するという、殆ど死に設定みたいな物だったりしますわ。「近年は聖女殿が失踪された事もあって何かと他国から突かれる事が多くてな。言ってしまえば国の防衛力を高める必要があるのだ。そして余は国防の観点においてバレスチカ家の武力を高く評価しておる。加えて今回リリアーゼ嬢が成した『最果ての回廊』10階層以降のボス撃破という功績だ。バレスチカ家が王家に忠誠を誓っていないというデメリットを差し引いたとしても関係性を深めておきたい」 なるほど。 つまりわたくしが前世の記憶を取り戻した事によって原作とは違う行動(ダンジョンでの修行)をとった結果、未来が変化したわけですわね。「して如何だろうか、リリアーゼ嬢。其方の嗜好は理解しておるし、世継ぎを産んでくれさえすれば、好きなだけ女を囲っても構わぬと倅のアレイスターも申しておる。加えてこの話を受けるのならグラントを伯
––––ひそひそ。 耳障りな囁きと不躾な視線がわたくしとロゼ、そしてお父様に向けられますの。 いくらわたくしが目が眩む程に美しいとはいえ、こうも露骨では流石に鬱陶しいですわね。 ていうか、噂話なら本人に聞こえない程度の音量でしやがれですわ。 ここはキングダム王国の王都シュトーにある王城。 王都についたわたくし達はまずマリアお母様をこちらでお借りしてるお屋敷に送り届けてからグラントお父様伝いに対レイライト妨害用の魔道具の調整を宮廷魔術師に注文。 その後はバレスチカ家の養女になるロゼの公式な顔合わせを終わらせ、最後に冒険者ギルド本部に高難度ダンジョン『最果ての回廊』で未知のボスモンスター(とこの時点ではなっている)【処刑者(しょけいしゃ)キルリス】討伐の報告を終えたのですけれど……。 キルリス討伐の褒賞はこの国の王であられるアーサー・キングダム陛下から直接賜るという事で急遽彼の執務室にお父様と共に呼び出される運びとなったのですわ。 まぁそれ自体はいいとして––––。「騎士団長殿と一緒におられるご令嬢、なんと麗しいのだ……」「アクアル嬢も相当な器量だが彼女はそれ以上かもしれぬ」「いや、だが騎士団長殿の次女って確か……」「クレイジーレズ令嬢だったか?噂だとお気に入りのメイドを椅子がわりにしてるかなりアレな令嬢らしい」「なんだって?それじゃあ後ろに控えているあの可愛らしいメイドの子が––––」「まぁ!なんて美しい方なのでしょう。是非お友達になりたいわ!」「ダメよ、早まっちゃダメ!私、クレイジーレズ令嬢と目を合わせたら孕まされるって噂を聞いた事あるわ!」 ……。 とりあえずピーチクパーチクうるさい連中は後で事実陳列罪で訴えるとして、一つ言いたい事がありますの。 クレイジーレズ令嬢ってゲーム(現実)の中でもそう呼ばれてますの!? いや、原作である『ふぉーみら』だと攻略対象達やシャルロットからはリリアーゼ嬢、もしくはリリアーゼ様としか呼ばれてなかったからこんなの予想できる訳ないのですわ! そもそもリリアーゼ嬢より渾名であるクレイジーレズ令嬢の方が長いってのもどうなんですの!? ––––ギロリ。「「「「ひぃっ!」」」」 とりあえず喧しいモブ貴族共に対して軽く殺気を飛ばしつつ、睨みつけてやりましたわ。 すると大半は腰を抜かして蜘蛛の子
「あの子、私の身体が綺麗だったって––––」「アクアル……」 レイライトの境遇を聞いて一筋の涙を流したアクアルお姉様の頭をお兄様がそっと撫でましたわ。 彼女の涙を見るのは半年前にわたくしが彼女の純潔をこの2本の指でぶち抜いて以来の事ですの。 お姉様のお気持ちはよく分かりますわ。 わたくしのような超絶美少女に百合乱暴(控えめな表現)されるならともかく、汚い汚(お)っさん達に◯されまくるとかマジで洒落になりませんわよね。 どおりで原作の『ふぉーみら』でレイライトのそういったシーンがない訳ですわ。 むしろ描写したらそれはもはやエ◯あり乙女ゲーではなく、ただの美少女◯教◯辱エ◯ゲーですの。 「お父様。レイライトに危害を加えたのは枢機卿だけではないですのよね?他のカス共はどうしてますの?」「調査の後、枢機卿の周辺と関わった者達は全て我が族滅した。またその後、もし神殿の関係者が再度聖女を害するような事があれば、我らバレスチカ家総出で神殿に属する者を一人残らず家族と従者に至るまで殲滅すると通達してある」 あぁ、そう言えばレイライトが失踪した後、神殿の上層部の者達とその家族が揃って暗殺されたというニュースを聞いた事がありましたわ。 あれはグラントお父様の仕業でしたのね。 ……これじゃ、わたくしが◯るところが残ってないじゃねぇですの。 『ざまぁ』は実際にカス共を痛めつけてぶち◯すところまで描写しないとスッキリ出来ませんわよ? 「ともかくレイライトが生きていると分かった以上、アレは我が連れ戻す。貴様達も情報を得たら我に––––」 「待って、父さん。一つ確認しておきたい事があるの」 お父様が話を締め括ろうとしたところに涙を拭ったお姉様が割り込んできましたわ。「さっき父さんが言っていた、『私と父さんの間にそれほど力の差はない』って言葉。あれはお世辞ではないのよね?」「うむ、相違ない」「なら父さんじゃレイライトには勝てないわ。あの子と1対1でやりあって勝てる可能性があるのはリリアーゼだけよ」「なに……?」 お姉様からのご指摘に目を丸くするお父様。 実際、お姉様の言ってる事は間違ってはいませんわ。 原作ゲーム中のステータスは中ボスであるお父様よりラスボスであるレイライトの方が上ですし、そもそも戦闘難易度的には単体でボスをやってるお父様よ
今回いつもの百合乱暴(控えめな表現)とは真逆?の描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――「レイちゃんが!?ねぇ、アルちゃん!それは本当なの!?」「母さん、落ちついて」 『レイライト』という人物名を聞いた途端、血相を変えてアクアルお姉様に詰め寄るマリアお母様。 グレンお兄様は『レイライトが……』と呆然としながら呟いてるし、グラントお父様はいつも無愛想で無表情なのに今は眉が吊り上がって殺気が漏れ出てるしで、お茶の間が凄まじい事になってますの。 話についていけてないのはポカンと可愛らしい口を開けたロゼとわたくしだけ。 ……レイライトってあの【聖王レイライト】の事ですわよね。 原作ゲームである『ふぉーちゅん⭐︎みらくるっ!』。 そのラスボスの。 聖王レイライト。 彼女は『ふぉーみら』において大ボス悪役令嬢である魔王リリアーゼ・バレスチカを倒した後に出てくる、いわゆるラスボスに当たるキャラですわ。 レイライトについてはゲーム中で多少の情報を得る事はできますけれど、分かっているのは彼女の容姿が真っ白な髪に血のような赤い瞳、ホワイトロリータのドレスに白タイツ、白のブーツと、まるでリリアーゼを反転させたかのような超絶美少女である事。 あとは歴代最高の聖女とうたわれた実力者で、ゲーム開始前には既に失踪しているという事ぐらい。 作品の主人公であり聖女候補でもあるシャルロットはある意味、レイライトの後釜とも言えますわね。 レイライトの登場機会はラスボスとして出てくる1回だけですけれど、その際に発せられるセリフから彼女がリリアーゼとシャルロットに対し、並々ならぬ憎しみを抱いてる事が伺えますの。 ちなみに彼女が登場する流れについては、主人公パーティがリリアーゼ戦で勝利した場合は現れたレイライトが満身創痍のリリアーゼにトドメを刺してそのままラスボス戦、敗北した場合は既に消耗しているリリアーゼを舐めプして甚振ろうとするものの、慢心を突かれて返り討ちにされ、そのままバッドエンド(クレイジーレズ)ルートに入る運びとなっていますわ。 以上の説明から察する事はできると思いますけれど、レイライトはその優れたビジュアル自体は評価されているものの、出番が少なすぎた事とリリアーゼのインパク
結局グラントお父様へのご挨拶はアクアルお姉様からの提案で、ダンジョンに修行に行っていたわたくし達3人だけでなく、グレンお兄様とマリアお母様もご一緒する事になりましたわ。 人数が増えたので面会は執務室ではなく食堂でお茶でもしばきながら行う事になりましたの。 わたくしとしてもそっちの方が肩肘張らなくて済むからよきですわね。 ◇ 部屋で少し休息をとった後で食堂に行く道すがらロゼとお姉様と合流、そのまま食堂に入室するとお兄様とお母様、そして黒髪黒目で髭を綺麗に切り揃えた軍服の上から黒のコートを羽織った偉丈夫、グラントお父様が家令のスバセが淹れたやっすい原価のコーヒーを啜ってましたわ。 わたくし達の入室に気付いたお父様は席を立つと大柄な体格に見合わぬ無駄のない動きでまっすぐこちらまでやってきましたの。 お父様はわたくしの父なだけあってかなりのイケオジですけれど、軍服を押し上げる程に盛られた筋肉と、お兄様の1.5倍はある肩幅、無愛想な目つきも相まって中々に迫力がありますわね。「ご機嫌よう、お父様」 「久しぶりね、父さん」 「ご無沙汰してます、御当主様」「うむ、3人とも見違えたな。それでこそ我がバレスチカ家の一員よ」 それぞれの挨拶に対して深く頷くお父様。 バレスチカ家至上主義、バレスチカファーストを信条としている彼にとって、こうしてダンジョンから帰還したわたくし達の成長をその目にするのが嬉しいのでしょう。 立ち振る舞いだけを見るなら立派な当主にしか見えないお父様ですけれど、実際には中々にやべーやつですの。 何せ原作ゲームの『ふぉーみら』において彼は投獄されたわたくしを救い出す際、自分が団長として手塩をかけて育ててきた騎士団員を全員、ついでに陛下を容赦なくぶち◯してますものね。 彼が四天王(3人)としてシャルロット達と相対した時の会話でのキレっぷりも相当アレで、ユーザーからはキチ親父と呼ばれてましたわ。 バレスチカファースト、ここに極まれりですの。 わたくしが原作でのお父様の事を回想してる間にお父様はお姉様と向き合ってましたわ。 何か仰りたい事でもあるのかしら。「強くなったなアクアルよ。冒険者協会には我からSランク昇格試験への推薦状を出しておこう」「私が父さんと同じSランクに……?」「うむ。戦いの経験値さえ除けば今の貴